第60回 AY様

2歳半から日本舞踊を習っていたこともあり、着物を着る機会は、同世代の子より多くありました。母の3歳のお祝い着をお正月に着せられ、母の七五三の時の長襦袢を3歳のお祝いの時に襟にしたのだと聞いています。7歳のお祝い着は5歳の弟の羽織とともに、そして成人式のお振袖も、石神井公園にあった東京友禅の工房で書いていただきました。ふりかえると、着物に囲まれた環境は、親に感謝するしかありません。

父方の祖母は十二代目團十郎ファンクラブに入るほどの歌舞伎好き。歌舞伎の筋書きのタイトルも書かれていた大石隆子先生に書道を教えていただいていたので、祖母の作品を見に日展にも何度も行かされた記憶があります。自宅で書道を教え、色々なシーンで着物を着ていました。上野住まいだったこともあり、手持ちの帯締めはほぼ道明。小柄で地味好みだったため殆ど手放してしまったのが残念ですが、今考えるとオシャレでしたね。母が嫁いですぐ「好きな着物を買ってあげる」と呉服屋さんに連れていった話は、今でも繰り返し語られます。「本当は違う着物が欲しかったのに、高くて選べずに仕方なく選んだ着物」という小紋は、いまはわたしのお気に入りです。


母方の祖母は、行事には着物で参加していたと聞いています。書道とお茶を長く習っていて、お寺の檀家行事も熱心に参加していました。祖母の姉が逗子で和裁をしていたことから、そのご縁で浦野理一の経節紬も何枚か残してくれました。祖父は市会議員で、視察で京都、金沢、奄美などへいくと、反物を買ってきたとのこと。「コレはお父さんがどこそこへ行った時に買ってきてくれた着物」という話は、母からよく聞かされます。こちらの祖母とは体型もそっくりなので、良い着物はすべてそのまま、わたしの手元にきました。


母はお茶と日本舞踊を習い、学生の頃、新宿の百貨店の呉服売り場で装道の実演販売を見て着付けを覚えたそうです。わたしたちの小学校の入試にはお気に入りの大島で行ったそうですが、あまり着物を着ている記憶がありません。弟の同級生の銀座の呉服屋さんで何枚か誂えた着物も、殆ど袖を通さないまま譲り受けました。


手元にある着物をみるとうんざりしてしまう量があることは確かですが、不思議なことに、洋服よりも、ストーリーを持っているのが着物です。誰がどんなシーンで着ていた、あれはこういう時だった、そこから溢れてくる人たちの話を、興味深く聞ける年になりました。物語を持った着物たちを受け継いだわたしは、最低限のお気に入りと良いものをお手入れしながら、あたらしいストーリーをつくっていきたいと思います。

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