第36回 美和子様
みなさんはどういうきっかけで着物に目覚め、着物の世界に浸っていかれたのでしょうか。私の年代は親が当然のようにひと通りそろえてくれた着物1式を持って嫁いだものです。着ようと着まいとです。そして私は着ることもなく、また着ようとも思わなかったのです。
30数年それらはタンスの中でじっくり熟成を重ね、いい具合に黄変し、胴裏など豹柄のようになってしまいました。(スイスチーズみたいとの娘の表現もありましたっけ)例年ならそれらを広げては親に対する罪悪感もあり、誰に聞かせるでもなく「仕方ないわよね、今更着ないもの」といいつつ、また、たとう紙を畳んでタンスに仕舞うはずでした。
そう、はずでした!! 一昨年までは。
しかし何を思ったか、急に着物を着てみたくなったのです。今でも、なんでそう思ったのか不思議ですが、それからの怒涛の精進振りは我ながら頑張ったなあと。今では道行く着物姿のご夫人やらお嬢さん方を観察しては「あら、半襟が出てないわ」だの、「足袋が丸見えよ、おたいこが小さいわ」だの生意気に密かにチェックしております。
そして私の着物生活にいち早く気づいた友人達は待ってましたとばかりに自分達の着物を持ち込みました。そうです、同世代の友人も着る予定がない、しかし亡き両親が揃えた着物を処分も出来ずもてあましていたのです。今、それらは順次おたすけくらぶさんで仕立て直しをしていただき、やっと訪れた出番を待っています。そして、それらに袖を通す度に、娘のためにと用意なさったであろう、お会いしたこともない親御さんの思いを一緒に着ているような、なんともいえない気持ちになります。今ではこれらを私の代で着倒すことが使命のようにも感じています。
外出の前日にまず着物を選び、そして帯、それにぴったりあった帯締め、帯揚げ。着終わって本当にそれらがぴたっと決まった時の満足感。皆さんもそんな経験がおありだからこそ
面倒だけど、やめられない!んですよね。
日本人の特権ですもの。
前の記事:第35回 井出玲子様
次の記事:第37回 登夢様