第34回 まゆ様
恋狂い
「これ、全部ご自分で履くんですか?」引越しらくらくパックの若いスタッフに真剣な眼差しで聞かれ、うず高く積まれていく下駄だの草履だののダンボールの山に唖然とする私。しかも荷を解くと「ああ、こんなの持ってたんだ」と、すっかり忘れているものさえあったりで、履物だけとってみても、ここ数年間いかにきものに傾倒してきたか、あらためて思い知らされる始末でした。
もちろん、現在も、きものは大好きなのですが、自分なりの分析としては「恋狂い」も7年の歳月を経て、ようやく「大人の愛」へと移行しつつあるようでして。その証拠に、以前なら絶対に素通りできなかった<アンティークきものあり>というような看板の前も、今では比較的落ち着いた心持ちで通り過ぎることができますし、猫の見回りのごとく展示会などに通う勢いも、すっかりなりを潜めています。
正直、「恋狂い」の時期は、圧倒的に購買意欲が勝ったために「お手入れ代さえなければ、もっときものが買えるのに!」と、お手入れをうらめしく思ったこともありました(富さん、許してくださいましね。だって恋は盲目が醍醐味ですもの)。でも「愛」にまで思いが昇華されつつある今では、買い漁った古着たちの中から気に入ったものだけを、順繰りに仕立て直して、本当の意味で自分のきものにしたいと、思いを巡らせる日々。
実際、友人であり、こちらの会員でもあるあかねさんから「あなたの方が絶対に似合う」と譲られたアンティークの夏きものは、富さんはじめスタッフの皆さまのおかげで、まるで新品のお誂えのようになり、私の一番のお気に入りとなっています。 きものへの「愛」が深まるほどに、大切になってくるのは、頼れる悉皆屋さん。
いつもわがままなお願いばかりですが、これからもよろしくお願いしますね。富さん!
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