第31回 えりこ様
きもの・・・ 思い出すのは幼稚園のお誕生会にくる母の着物姿。そして自分の七五三のきもの、でしょうか。
母が選んで仕立てた着物、長襦袢、帯。柔らかでなめらかな絹の感触。これらを身にまとうときの嬉しい、楽しい気持ち。「これはお母さんがお嫁に来たときのもの」といって、胸元に押し込む、はこせこもまた良い思い出です。とにかく嬉しくて、着物が窮屈、などと思わなかったせいか、「きものがきたい」と思うこどもでいました。とはいえ正月にアンサンブルを着たこともなく、七五三のきものを直してもらっては着ていたのです。その後は、着物への憧れを持ちつつも成人式まで袖を通すことがないままでした。
憧れの振袖・・・ほしくてほしくて、でも「買って」と言えなくて。同級生の中には「おばあちゃんがいつの間にか買ってくれた」なんて羨ましいことを言う人たちもいましたっけ。貯金をはたいて買える仕立て上がりの振袖を買い求めました。襦袢も母に仕立ててもらって、わずかな予算だったけれど、自分の着物を手にしたときの大きな喜びと幸せな気分は忘れられません。
その後は「結婚式に」と付け下げ、訪問着を作った程度でしたが、きもの熱に拍車を掛けたのは茶道のお稽古でした。お稽古は普段の洋服ですが、初釜だけはきもの。そのため、と称して財布と相談しながら1枚ずつ増えていき、茶会に出るようになると、訪問着、小紋だ、色無地だと続々増えていきあっという間に箪笥ひと棹に。だってお買い物は楽しいですよね?(笑)この着物なら、手持ちの帯が合う、とか、小物の色はなんて考えるのはエンドレスに楽しい時間。着付けも習い、自分で何とかなると、ますますはまり込んでいきました。そんなころ、お手入れも必要なことを知り、ネットを知り、丸富さんとも出会いました。
いまは5歳の娘や仕事と格闘の連続で、なかなかきものをながめることもできないのですが、彼女の7歳のお祝いのことを考えるのが楽しみなのです。妹の四つ身を着せて、襦袢は何がいいかな、なんて。(でも増え続けるきものたち…)なにしろ、箪笥ひと棹を受け継いでくれる人になってもらわないと。
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