第7回 卯さぎや様

 もう10年以上前のこと。立ち寄った郵便局の窓口でもらった一枚の切手袋にかかれた小さい広告が始まりでした。「染み抜きやっていただけるんでしょうか」と、その日のうちにそこに書かれていた電話番号に掛けていました。それは着付け教室に通い始めてしばらく経ち、汚さないように恐る恐る着物を着ていた頃でした。丸洗いはクリーニング屋でやってくれるらしいのは知っていましたが、正絹の着物に付いたしみはどうしたらいいのか、またべらぼうな料金を請求されたらどうしようかと「着物は着たし、手入れは怖し」の日々でした。なんとか安心して着物を着たいと、電話帳で洗い張り店を探してようやく『老舗』といわれる店に頼んでみたら、お気に入りの無地紋付の袖がアイロンでテカテカになって戻されてきました。お値段はカシミアコートのクリーニング料金の2倍でした。

 そんな経験をしていた私が恐る恐る掛けた電話は当時浜町にあった営業所につながり、営業の方が受けてくださったのです。「はい、はい、大丈夫です。どちらにお住まいですか?うちの営業所のすぐ近くにお勤めなんですね。じゃ車で取りに行きますよ」と、いとも気安く、わざわざ当時の勤務先に取りに来ていただくことになりました。初めてお願いしたしみぬきの仕上がりは大満足、料金はかなりお手ごろでした。この出会いのおかげで、「お手入れ」のバリヤーが消え、着物という衣服を楽しむことに大きな世界が広がったのです。それからは、染み抜き、洗い張り、仕立、誂え染め・・・同じ着付け教室の友人のみならず、恩師や、会社の同僚も何人も交えていろんなことをお願いしました。それぞれの仕上げに大きな満足をいただいたのはもちろんです。ついに営業の方から私専用に加工伝票を1冊いただいて、それはいまでも手元にあります。

 数あるお手入れのお願いの中に忘れられないものがあります。それは義母の留袖用袋帯のお手入れです。30年以上前に流行った白地にプラチナ箔の帯でしたが、義母は親戚が多く留袖を着る機会も多かったので、手ずれ、結びじわで、かなりくたびれてプラチナ箔は、まるで焼いたアルミ箔のように曇ってしまっており、留袖に結んでも見栄えは、まったくしない状態でお手入れをお願いしました。10日ほどして、いつものように営業の方に届けていただいた、その袋帯の畳紙を開いて改めたとき、おもわず「えー!! 新品?! これってほんとにあの帯ですよね?!」会社の受付ブースにいるのを忘れて大きな声を出してしまったくらい驚きました。ぴかぴかです。「はい、そうですよ。洗いまして、プレスしたんですが、ほんとにきれいになりましたよね。」とにこにこです。頼んだ義母も私自身も手ずれやしわ、箔の曇りが余りにひどいので、どのくらいまで、きれいになるものか正直いって期待はあまりしていなかったのですが、その帯は一目でプラチナ箔とわかる輝きが戻っており、手ずれも消え、しわもなくなっています。冗談ではなく新品のようです。そのプラチナ箔の袋帯を持ち帰って見せた義母からは「新品の帯を買ったみたい」と感謝されたのは言うまでもありません。そのときの私の「鼻高々」な気持ち、おわかりいただけますでしょうか。

 その後、社長さんのアイディア、営業センスでどんどん発展され今は「きものおたすけくらぶ」に窓口が移りましたが、その技術力には、ますます信頼を寄せています。その技術力がある限り、もうお手入れバリヤーなしに着物を楽しむ日々です。

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