第53回 SO様
きものおたすけくらぶさんをご紹介してくれたのは、ある呉服屋さんです。
といっても店舗を持たずに、ご自身の美的センスにかなったものだけをご商売にされているかたです。
最初に買ったのは、なんだったでしょう。たぶん、帯。たいていの呉服屋さんは、仕立てて送ってくださるのに、「仕立ては、どうしましょう」と聞いたのは、こちらでした。ああそれなら丸富さんがいいですよ、とあちら。それはどこなんでしょうと聞くと、きものおたすけくらぶという悉皆と仕立てなどなんでもやってくれるところだと、いうことでした。
ああ、きものおたすけくらぶ・・・着物好きな方のブログで拝見したことがあったなと思い、電話番号をきいて、お願いすることに致しました。プロがご利用しているところなら、間違いがありません。
その後ホームページを見て、着物の仕立てやしみ抜きをお願いしています。メールでよく連絡を取りますので安心してお願いでき、いつも丁寧な仕上げです。
私と着物の出会いは、出会いといえないほどの身近さでした。母が着物が好きで、2歳か3歳のころ着せてもらった写真があります。紅いべべを着せてもらってうれしそうです。この着物はどこからきたのでしょう。なぜか手元にはありません。
次は、七五三でした。昭和39年のサラリーマン家庭で3歳違いの妹と一緒にしたいという母は、それを実現するために考え抜いたとということでした。呉服屋さんに行き、まず白生地を二反決めました。私のはがまの穂に氷割れ、妹は流水でした。全体を薄いピンク色にそして、裾と振りが朱色のぼかしになるよう、染めてもらいました。刺繍も手書き友禅模様もありませんでしたが、二人が並ぶと、たしかに目立ちました。
電車でおばあちゃんの家に行く道すがら、何人もの人にかわいい、と声をかけられ、私たちは恥ずかしかったのですが、母は嬉しかったことでしょう。
7歳のお祝い着は、揚げを出しながら六年生までお正月に着ました。本裁ちにしてもらったそうで、20歳のころ、それは臙脂色に染められて、道行きコートになりました。
妹の着物はさすがに本裁ちというわけにはいかなかったのですが、袖裏や裾回しも一反で作ってもらったそうで、後に朱色に染められて、長襦袢になりました。着物はなんと役に立つものだろう。子供心に感心しました。
母自身も派手になった羽織を染め直して縫ってもらったり、長着を道行きコートに仕立て直したり、縫うことはしませんでしたが、ほどきながら繰り回しのことを何回も話してくれました。
高校生になり、身長も決まってくると、ウールのお対の着物を作ってくれました。そのころ大変流行ったもので、友達と成田山に初詣に着てゆきました。もちろん友達もウールのお対です。小紋や紬を着ているとしばらく忘れていましたが、ウールはしわにならず、手入れもクリーニング屋さんでいいので、普段着物にもっと活用されるといいと思います。
会社に入社し、ボーナスで、小紋と江戸小紋、付下げを作りました。帯は名古屋帯でしたが、箔つかいの亀甲模様と青海波を母のアドバイスのもと買い求め、普通の名古屋帯より格があるので大丈夫と言われ友達の結婚式に締めました。名古屋帯は扱いが楽です。着物は母に着せてもらっていたのですが、23歳で結婚するとき、母にもう着せてあげられないから、覚えなさい、と一喝されて自分で着れるようになりました。日頃ウールを着ていたので着ることが出来ましたが、お太鼓結びはちょっと苦労しました。
話は戻りますが、成人式には振り袖を作ってもらいました。母と振り袖を選びに行きましたが、長い袖と全身の柄付け、平凡な顔の私には帯に短し、たすきに長しで、なかなか似合うものがありません。自分がどんなものを着たいかもわかりません。私が先にデパートの展示場で店員さんに勧められたのを母にどうか、と聞きましたが、これはだめ、とにべもなく却下・・・結局七五三からお世話になっている浅草橋の呉服屋さんで探すことになり、卵色の地色に熨斗模様の振り袖に決まりました。母なりの理想像があったようで、帯は黒地に丸紋と決めていたようでした。その呉服屋さんにはなく、デパートを回り高島屋で買ってもらいました。後に妹の振り袖を探しに行ったとき、浅草橋の呉服屋さんは、すぐに黒地丸紋の袋帯を出してきました。着物は同じ工房と思われる柄着けで朱色のものがあり、すぐに決まりました。
母は、娘二人に振り袖を着せるにその都度美容院で着付けをするのは経済がもたないと考え、近所の着付けをしてくれる人のところへ手土産を持って行き、教えてもらいました。あとは、練習あるのみです。変わり結びは文庫とふくら雀にしぼり、何回も練習しました。練習台に何回もなっていると台の方も覚えるものです。のちに友達に着せてあげることもできました。
これもあれも着物のことについては、母から教わったことばかりです。色の取り合わせ、柄の取り合わせ、それは、今の感覚では、昭和の香りですが、それを基本に着物雑誌の数々をみて覚えていきました。母から娘へ私のうちは立派なものはありませんでしたが、着物の知恵を継ぐことができました。
今、これから着物を着ようという方が、些細なことでもお困りのようです。私には伝承する娘がおりませんが、そのいう方々にお役に立てればと思っています。
着物が晴れの日の自信がもてる装いになり、また日常の心休まる衣服であるよう、私自身も着ていきたいですし、皆さんにも着てほしいです。
こうして、きものおたすけくらぶさんが、いらっしゃいます。何でも相談して、安心して着ましょう。その前に身近な着物好きの人に相談すると喜んでいろいろ教えてもらえると思います。
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