第13回 のの字様
きものを着始めたころはシミをつけたら実家で世話になっている呉服屋さんが処置を取り次ぎしてくれましたが、実家から離れた後はデパートの悉皆部門に依頼しました。やがて、お手入れをしてくれる現場に直接依頼してみたくなって、自宅で作業をしている近所のお店に頼むようになり、シミ抜きは近くのお店にできるだけ早く依頼に行こう、と、引越しをするたびに別のお店に依頼することになりました。シミ抜き以外にもいろいろ依頼をし、仕上がりに満足して感謝することが多かったのですが、何軒かに依頼をするうちに不安な思いや行き違いも経験してしまいました。
一番不安だったのは、書面のやり取りが無いことでした。そのようなお店に2度出会い、こちらの連絡先と寸法を控えるだけ、依頼者である私の手元にはなんの控えも無いということが不思議でした。そのうちの1軒で、羽織の仕立てを依頼したのに勘違いで道行を仕立てられたことがあります。依頼時にその場で依頼内容をメモしてもらえていれば防げたことですし、記入間違いだったとしても控えがあれば気付いた時点で対処できたことです。羽織に戻すには襟にハギをいれることになり、悔やんでも悔やみきれませんでした。
何を預けたのか、何を頼んだのか、何を引き受けてくれたのかひとつも証拠がなく、わからないことだらけというのはとても怖いと思いました。お手入れして着続けたいほど愛着のある大事なきもの、預けるときに安心できるかどうかはとても大きな違いです。しばらく、きものを預けるのが怖くなり、お手入れから離れてしまいました。
やがてシミ抜きや仕立て直しをしたいものが溜まって困り果てたころに紹介されたのが、「きものおたすけくらぶ」さん関連の「丸富」さんでした。最初はまだ不安を抱いて工場を訪ねたのでしたが、こちらでは当方の質問に対して丁寧に説明してくださり、また依頼をした事実は伝票またはメールの控えで自分でもいつでも把握できるのでとても安心できました。また、仕上がりの美しさに対して価格が手ごろで処置の内容にも納得できました。生地の状態などの関係で予定の処置が施せない場合などは連絡・相談を繰り返してくださいますし、寸法違いなどの行き違いが起きてしまったときにも素早い対応をしていただけ信頼が増しました。自宅からは遠いとはいえきものを詰めた「おたすけぶくろ」を深夜のコンビニに持ち込んで配達依頼し、同時にメールで気軽に迅速に依頼ができるので、平日の昼しか開いていない近所のお店よりも近い気分でお付き合いさせていただいています。今度引越しをしたとしても、もう新しく近所のお店を探さなくて済むのはありがたいことです。
「おたすけくらぶ」さんにはこれまでお世話になったことに感謝し、これからも頼らせてくださいとお願いするとともに、どなたにとっても大切なきものを安心して預けられる頼れるお手入れ屋さんであり続けてほしいと願っています。
前の記事:第12回 ぼー様
次の記事:第14回 林様