お手入れのいろは
第6回 タンスの中の事件
ある日、人間国宝の作品も取り扱う取引先の社長から、まるで断末魔の叫びか?というような声で「お客様が大変ご立腹で、相談にのってほしい。」と電話がありました。何があったのかと聞くと
お客様へ納品する際、たたんだ帯の折れ目がシワにならないように、棒状の発泡スチロールを入れているのですが、あるお客様が、納品したものをタンスに保管なされ、時間が経った後、その帯を締めようと開けた際、発泡スチロールが溶けてのり状になってくっついてしまっていて、お客様が、大変お怒りになると同時に、がっかりされいるのです。
というのです。
「ハッポウ事件」の発生...のんびりはしていられません。
早速、弊社の敏腕「科捜研」が証拠品を調査したところ、帯の製造工程で使用されたゴム系の糊と発泡スチロールが反応し、発泡スチロールが溶け出したとの見解が出てきました。
プラスチック消しゴムをカバーを外して使っていると、筆箱にピッチリくっついていて、筆箱が少し溶けていたという経験ありませんか?これと同じことが、タンスの中で起きていたのです。
この後、別な取引先から、同様の相談をされました。
かつて、米糊が主流だった友禅の世界も、今は、もっぱらゴム糊が用いられるようになりました。
「水元」と呼ばれる、糊と余分な染料を落とす工程で、しっかりと落とされているはずなのですが、繊維間の奥の奥には、ゴムが身を潜めていると考えなければなりません。タンスの中は「発泡」スチロール持ち込み禁止!でお願いします。
帯やきものを保管する際、何か挟むのであれば、通称マクラと呼ばれる、わた入りの棒をご利用ください。胴裏で作られる方もおりますし、店頭で販売されていたりもします。
シワになる前に着ることが、一番の対処法でしょうか。
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